いつの間にか「ゆるブラック企業」という言葉をよく耳にするようになりました。
一見ホワイト企業のようだけど、長い目で見るとブラック企業に近いじゃないか、というような企業のことをいうようです。
楽なんだけど、成長できない、そんな会社を「ゆるブラック企業」といいます。
ブラック企業とは言えないし、むしろ楽してちゃんとお給料がもらえるなら、むちゃくちゃいいじゃないですか、っていう方もいらっしゃるのも事実。
だけど、気を付けてほしいです。今はよくても、2年後、3年後には「もっと早く辞めておけばよかった」となりかねません。
今回は、ゆるブラック企業の特徴やポジティブ・ネガティブの両面から説明したうえで、もしゆるブラック企業で働く場合のリスクについてお話していきたいと思います。
ゆるブラック企業とは
ゆるブラック企業って何?
ゆるブラック企業とは、いわゆるブラック企業とは一線を画しており、ブラック企業でよくあるような長時間労働やセクハラ・パワハラなどのコンプライアンス違反はなく、むしろ働きやすい職場環境であるケースが多い。
一方で、「仕事にやりがいがない」「成長できる環境ではない」「存在意義が見出だせない」と、ある種の無気力人間を作っていく職場になっているような企業のことです。
つまり、ゆるブラック企業は、ホワイト企業とブラック企業の中間にいるような企業と言えます。

ゆるブラック企業はどうやって誕生した?
ゆるブラック企業の誕生には2つの要因があります。
1つはブラック企業から残業やパワハラ・セクハラがなくなったものです。
2019年4月から施行された働き方改革関連法案と、2022年4月から全企業に適用されたパワハラ防止法(正式名称:労働施策総合推進法)がきっかけといわれています。
かつては、法律上残業時間の上限はありませんでしたが、働き方改革によって設けられ、それを超える残業ができなくなりました。また、パワハラ防止法によって、部下に対して慎重・丁寧に接する上司が増えたため、職場でのパワハラが減っています。。
これらによって、ブラック企業は法的に罰せられやすくなりました。しかし、企業の中には法律を守ろうとするものの、生き生きと働ける職場づくりの実現までに至っていない企業が少なくありません。その結果、法律を守るために、当たり障りのない仕事しかしなくなり、ゆるブラック企業が生み出されました。
誕生要因のもう1つは、企業自体は以前と変わらないのに、まわりが変わって「ゆるブラック」と言われるようになったものです。
終身雇用という考え方がなくなり、転職が当たり前の時代になったことで、労働者が求める雇用環境のレベルが高くなりました。そして、働きやすいことに加えて「スキルアップやキャリア形成がしたい」「自分の市場価値を高めて収入をアップさせたい」などの要求を満たす企業が求められるようになりました。
こうした人からみれば、働きやすいだけの企業はゆるブラック企業とみなされてしまうわけです。ましてAIなどによる機械化が進み、人は単純作業から解放され、人間にしかできない質の高い仕事を求められるようになってきているため、労働者の危機感が強まっています。
出典:時間外労働の上限規制 | 働き方改革特設サイト | 厚生労働省
出典:職場におけるハラスメントの防止のために(セクシュアルハラスメント/妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント/パワーハラスメント)|厚生労働省
ゆるブラック企業の特徴
ゆるブラック企業は、あくまでもブラック企業をベースに考え出された言葉になります。ブラック企業から残業・パワハラがなくなっただけで、プラスになる要素は少ないでしょう。
しかしそれでも、見方によっては、ポジティブな特徴がないわけではありません。ポジティブな特徴とネガティブな特徴について紹介します。

ポジティブな特徴
ワークライフバランスがとりやすい
ゆるブラック企業では、長時間労働になりにくい環境になっています。サービス残業はなく、時間外・休日・深夜手当などがちゃんと支払われていることが特徴ともいえます。また、会社が従業員に残業や休日出勤をお願いする時に必要な約束事である、いわゆる36協定もしっかり守られています。
残業が少なく、定時で退社できることが多く、休日のしっかり確保できるため、プライベートの時間を確保しやすいです。
働きやすい環境
ゆるブラック企業は、職場のムードが和気あいあいとしており、従業員同士の仲が良く、上司も厳しくないため、良好な人間関係を構築しやすい環境です。
厳しいノルマや過度なプレッシャーがなく、ストレスが少ない環境でもあり、有給休暇の取得がしやすく、コンプライアンス意識も高い傾向にあります。
これらの背景には、働き方改革推進によってダイバーシティが尊重されていたり、パワハラ防止法の遵守によって理不尽な言動が抑制されていたりすることがあります。
離職率が低い
ゆるブラック企業は残業時間が短く、職場の居心地が良いため、従業員の定着率が高くなっています。
厚生労働省の調査によると、離職理由として多いのが次のとおりでした。
- 職場の人間関係が好ましくなかった
- 労働時間・休日等の労働条件が悪かった
ゆるブラック企業は、これらのストレスが生じにくい環境になっているため、離職率が低くなっているのでしょう。
ネガティブな特徴
低モチベーション
ゆるブラック企業の従業員は総じてモチベーションを維持するのが難しい状況にあります。
高いスキルや知識、創意工夫を求められることが少ないため、存在意義が見つけにくく、やりがいを感じられないのっです。また従業員同士が和気あいあいとしており、競争意識が乏しくなると、差別化がなくなり、意欲的な従業員は特にモチベーションを失います。
仕事に対するストレスが少ない反面、緊張感や刺激がない毎日になるため、従業員はモチベーションが低くなってしまうのです。
成長しない
ゆるブラック企業の従業員はスキルアップやキャリア形成の機会が乏しく、長期的な成長が見込めません。
チャレンジングな仕事に取組む経験や、プレッシャーを克服して成長を実感できる経験を積みにくく、成長のスピードが遅いのが特徴です。
ゆるブラック企業では、ハラスメントになることに敏感過ぎるあまり、業務量や責任が強くかかりだすと、すぐにアシストされる傾向にあります。それがやさしいという側面もあるのは確かですが、成長の機会を奪ってしまっているのもまた事実といえます。
もちろん無用なストレスはなくすべきですが、成長しない環境では、仕事への意欲があり優秀な人ほど、危機感を持って早めに辞めてしまう傾向があります。
給与の停滞
ゆるブラック企業では、業務の専門性が低く、新しいスキルを習得する機会が少ないため、給与の上昇につながりにくい環境となっています。
多くの場合、昇給は定期昇給のみに限られており、能力や成果に基づく昇給はほとんど行われません。給与の停滞は従業員のモチベーション低下につながり、結果として企業の生産性にも悪影響を与える可能性があります。
厚生労働省の調査によると、離職の理由として3番めに多いのが、「給料等収入が少なかった」です。
生活に必要な最低限の給料がもらえれば満足な方もいるでしょうが、ちゃんと仕事に向き合っている人は、自分が頑張った分を見返りとして認識するので、見返りが少ないと認識すると、辞めていきます。
ゆるブラック企業の向き・不向き
ゆるブラック企業は、プライベートを重視したい人や精神的なストレスを避けたい人には適していますが、キャリアアップや仕事のやりがいを求める人には向いていません。個人の価値観や目標に応じて、慎重に判断する必要があります。
向いている人・向いていない人について解説します。

ゆるブラック企業が向いている人
給料は二の次でよく、ゆとりを第一に考えて働きたい方には向いています。
プライベートを充実させたい
ゆるブラック企業は、プライベートをより充実させたい方にはおすすめできる職場です。
給料は低く、上がる可能性が低くても、残業や休日出勤はほぼなく、仕事のストレスも少ないため、自分の時間をしっかり確保できます。
仕事を定時であがり、家族との時間を第一に考えたり、自宅で趣味に没頭できる生活も十分に可能です。
精神的にストレスを抱えやすい
ゆるブラック企業は、精神的にストレスを抱えやすい方にもおすすめできます。
業務内容に急激な変化やスピード感をあまり求めらることもなく、厳しいノルマや目標などもないため、自分のペースで働けます。
人間関係も良好なケースが多いため、ストレスを感じやすい方でも安心・安全に働けるでしょう。
ゆるブラック企業が向いていない人
キャリアアップしたい
ゆるブラック企業は、キャリアアップを目指している人には向いていません。
決められたルーティンワークを淡々とこなすことが求められているため、複雑なスキルや高度な専門知識があまり必要とされません。
経験年数を積んだとしても、入社当初以上の仕事を行うことはほぼないため、年功序列制度が根付いているケースが多く、頑張ってもキャリアアップの可能性は低いでしょう。
チャレンジよりも現状維持を目指す風土が強く、上昇志向が高い方には満足できない職場といえます。
仕事にやりがいを求めたい
ゆるブラック企業は、仕事にやりがいを感じたい方にも向いていません。
単純労働であるケースが多く、達成感などを感じにくいでしょう。評価制度も表面的になり、実力が昇進・昇格・昇給などに反映されることも期待できず、やりがいを見つけることが難しい環境になっています。
大きな仕事を任されることもないので、仕事にやりがいを求める方にはおすすめできません。
収入アップしたい
ゆるブラック企業は、給料を増やして経済的に豊かになりたい方には向いていません。
高度なスキルが必要とされず、専門性も求められない業務が多いため、元々の給料ベースが低くなっています。スキルアップの機会もなく、実力差で評価されることもないでしょう。
年功序列が根付いていれば、離職率も低いので上位のポストが埋まっていて、最初に提示された金額で長年働き続けることになるかもしれません。
また、残業がほぼなく残業代で稼ぐことも難しいです。
ゆるブラック企業に勤め続けることは、経済的に豊かになることを諦めることになるでしょう。
ゆるブラック企業で働くリスク
カエルは、熱湯に入れるとすぐに飛び跳ねて逃げ出すんですが、水の中に入れて徐々に温度を上げていくと水温の上昇に気づかず茹でられて死んでしまうと言われています。これがいわゆるゆでガエルです。
ゆるブラック企業で働いていると、居心地がいい反面、何も成長しないので、まわりが変化していても気付かず、どんどん年を重ねて、いつの間にか抜け出せなくなります。
スキルを習得したわけでもないし、何か役に立つ経験もしていなければ、転職活動をしてもうまくいきません。
何も気付かず、定年を向かえてしまうとまだいいのですが、何かのきっかけで気付いてしまうと、無駄な時間を過ごしたと後悔することが多いようです。
ゆでガエルになってからではもう取り返しがつかなくなり、ゆるブラック企業から抜け出すことができなくなります。それが最大のリスクと言えます。
ゆるブラック企業から抜け出す方法
今すぐ転職
ゆるブラック企業に入って、まだ間もないのであれば、早めに転職することをおすすめします。あるいは、30代半ばくらいまでなら、すぐに転職先も見つかるでしょう。
企業の体質を、一従業員が変えることは不可能です。もし変えることができたとしても、時間と労力はかなりかかると思いますし、自分が出資している企業でもなければ、そこまでする必要はないでしょう。

ゆるさを利用する
ゆるブラックなところを、むしろ利用する手もあります。
つまり、居心地がよく、高くはなくても生活できる程度の給料がもらえるなら、自由になる時間を利用して、資格取得の勉強をしたり、副業をしてスキルを磨くのもいいでしょう。
そのうえで、転職活動を始めれば、取得した資格や副業で得たスキルが、十分な武器になるでしょう。
まとめ
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
本記事では、昨今よく耳にするようになった、ゆるブラック企業について解説しました。
ゆるブラック企業は一見いい職場に見えますが、よくよく考えると、ブラックに近いとも言えます。
しかしながら、向いている人もいると思いますので、すべての人にブラックに近いとは言えないとも思います。
今回紹介したポイントを押さえて、自分がゆるブラック企業に向いているのかどうか、判断してください。
▼本記事のまとめ
- ゆるブラック企業は、ホワイト企業とブラック企業の中間にいるような企業で、楽なんだけど、成長できない企業のことを指します。
- ゆるブラック企業の特徴は、ポジティブ面とネガティブ面の両面あります。
<ポジティブ特徴>
・ワークライフバランスがとりやすい
・働きやすい環境
・離職率が低い
<ネガティブ特徴>
・低モチベーション
・成長しない
・給与の停滞 - ゆるブラック企業には、向いている人と向いていない人がいます。
・給料は二の次でよく、ゆとりを第一に考えて働きたい方には向いています。
・キャリアアップや仕事のやりがいを求める人には向いていません。 - ゆるブラック企業で働くリスクは、長く働いた時に、成長も経験もなければ、転職もままならず、抜け出す選択肢がなくなることです。
- ゆるブラック企業から抜け出す方法は、今すぐ転職するか、ゆるさを利用して、転職の準備をすることです。
今考えると、以前僕がいた支社もゆるブラックになりかけていた職場かもしれません。とにかく現状維持を好むも従業員が多く、成長などにはあまり興味を示しませんでした。5年間いて、何人かが成長に意欲を示し出しましたが、僕にはそれが限界でした。風土が根付いてしまうと、変えるのに時間も労力もかかるのを体感しました。
もしあなたがそんな職場にいて、自分に合わないと思ったら、すぐ転職を考えるべきです。世の中にはたくさんの企業があります。組織を変えるより、自分に合った企業を探したほうが断然早いです。
ゆでガエルになる前に抜け出しましょう!
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